『ニュース 奈良の声(2010-)』は、元新聞記者の浅野善一氏、浅野詠子氏が運営するウェブ新聞。奈良県内を取材範囲とし、扱うテーマは、地方公共団体の不正から、季節の話題、素朴な疑問に端を発する調査まで幅広い。行政発表に依存せず、マスメディアでは十分に伝えきれない独自ニュースと調査報道に力点を置く。住民の疑問や不満を丁寧に調査し、問題を明らかにするその姿勢は、ジャーナリズムXアワード(2022年Y賞)や、日隅基金・情報流通促進賞特別賞(2025)など高く評価される。運営資金は主に寄付による。
この『ニュース 奈良の声』で、有志の主催で読者会が開かれているという。2026年1月17日、会場となったリーブル王寺を訪れ、実際に参加してみた。
参加者10名。自己紹介では、「『ニュース 奈良の声』で報じられている他自治体の状況と比較しながら、自分たちの地域の課題を分析している」という読者や、「素人なので、誰に何をどのように訴えればよいのかわからない」と、コミュニティ施設をめぐる市と自治会の関係について、記者らに助言を求めたいと参加した読者もいた。彼らの切実な問いに対し、記者や他の参加者が問いを重ね、事実が整理され、問題の所在が徐々に明確になっていき、同様の経験を有する参加者から「市の財産目録を取り寄せて証拠にしてみては」「議員は動いてくれないか」など、実践的な助言が多面的に寄せられていった。

いま人手不足に悩む日本の地域ジャーナリズムの現場にも、こうした場が必要なのではないだろうか。
多くの読者は、ジャーナリズム以前に、地方行政などに高い関心を抱いているとは言いがたいだろう。私自身、地方行政に強い関心を持っていたわけではないが、氷山の一角として不正や隠蔽の兆しが見えたとき、それを少し掘り下げてみると、同様の問題が日本各地の地方自治体、さらには国の行政で起きていることが容易に想像できる。住民たちが口ごもりながら訴える疑問が、記者や多様な読者との対話を経て、徐々に明らかな問題として可視化されてくる快感は、発表モノの記事を読むときにはまったく得られない類のものだった。
ニュース記事を媒介に、住民たちが知恵を出しあいながら行政に関する関わりを深め、横並びの役所や議員を刺激しながら状況を改善していく。読者会という場は、ジャーナリズムを自らの側へと引き寄せ、私たちが本質的に問題視すべき事柄を理解する上できわめて有効な実践であるように見えた。また記者からも、今後各地域で、住民主導の財政白書(※1) を作ってみてはどうかという提案がなされた。ジャーナリズムの停滞が続く海外での住民参加型の議会報告や調査(※ 2)と通じる実践になりそうだ。
この読者会を主催した有志は、「ネットで記事を出し続ける二人に実際に読者の顔を見せ、声を聞かせることで応援したかった」と語っていた。こうしたあたたかい双方向の信頼が今後の地域ジャーナリズムを支えていくのではないだろうか。
※1 市町村財政分析の第一人者、大和田一紘氏のもと、東京多摩地区や大阪府高槻市、守口市などで実施されている。手法については、大和田一紘『五訂版 習うより慣れろの市町村財政分析』(2021 自治体研究社)
※2 アメリカにおける参加型ジャーナリズムについては青木紀美子「Engaged Journalism:耳を傾けることから始まる「信頼とつながり」を育むジャーナリズム」NHK放送研究と調査2020.3 青木紀美子「ジャーナリストの力とスキルを市民と共有する~米City Bureauの経験から~【研究員の視点】」#573